「歌う」ということ(2)

予告通り今回はボーカルに留まらず「歌うということ」について考えていきます。

前回「ある意味で正確さを欠いた歌を、魅力的に聴かせる」と述べました。
しかしそうなれば、疵を持った歌がなぜ人間にとって魅力的に響くのかを考えなければなりません。つまり前回述べた「正確さの外側」には、いったい何があるのか?ということです。

先に個人的な見解を述べてしまうなら、「歌う」とは単に時間軸に沿って音を並べることではなく「連なった音に意味を持たせること」ではないかと考えています。つまりこの意味においてメロディラインを声に出す(奏でる)だけでは歌ったことにはならず、最低限「そのメロディである動機」が伴わなければならない、ということになります。それがどれほど美しいメロディであったとしても「美しいメロディを声に出した」に過ぎず、「美しい歌を歌った」ことにはならない、と僕は思うわけです。

なので余談ですが、ボカロ曲においては作曲者にとってそれが歌であったとしても、いかに調教が上手かろうとボーカロイド自体は「歌っていない」という立場を僕は取りたいと思います。よって僕は「ボカロは歌じゃない」という意見は否定しません。一方過去にも述べた通り「歌として扱われる」ことも否定しませんが。

話を戻して、正確さを欠くことによって新たな意味がもたらされた場合、もしくは何らかの動機をもって正確さを欠いた場合においてそれが魅力的に響く、ということの典型的な例としてはブラックミュージック由来のいわゆるブルーノート、またギタープレイにおけるクォーターベンドなどがあります。
しかしご存知の通りそれらが常に機能するわけではありません。理論的なアプローチであれ感覚的なものであれ、或いは好きなミュージシャンへの憧れであれ、プレイヤー自身に「そう歌う動機、もしくは必然性」、もっとくだけた言い方をすれば、楽曲やメロディに対する「ふさわしさ」が伴わなければ、それは魅力的な歌にはならないのだと僕は考えます。

そしてこれは超絶技巧を売りにした歌(演奏)がしばしば非常につまらなく聞こえる理由でもあります。長年、数多くの音楽に触れていれば「お前が巧いことだけは良く分かった」と言いたくなる音楽に出会った経験は多くの人にあるのではないかと思います。
極めて技巧に優れ表現力にも長けていながらなお「つまらない」プレイというのは、結局それが「楽曲にふさわしい意味を持たせること」を出来てないからではないでしょうか。まぁプレイヤーの演奏技量そのものを楽しむ、という音楽の楽しみ方も全面的に否定はしませんし、その「ふさわしい意味」をもたらすにあたって充分な技量を備えている必要はもちろんあります。しかしその楽曲を選んだ理由、そのフレーズや歌い方である意味が感じられない歌(演奏)では、その力量すらもかえってあざとく感じられるように僕は思います。

ということから、「正確さの外側」にあるものとは「その音楽が、その形として存在する意味」であると僕は主張したいと思います。当然ながらあえてシステマティックに歌うことによって意味づけを為す場合もあり得るでしょうし、また正確さの外側にある意味を、卓越した技量を持って正確に表現するということもあるでしょう。前回少し触れた「ヘタウマ」というのも、その意味を表現する能力において「巧い」のかもしれません。
そして正確さの外側を歌うことが音楽に意味を与えるのだとすれば、しばしば言われる「音楽に命を吹き込む演奏」というのも単にプレイヤーのエゴや自己主張を押し出すことではなく、それらを通じて音楽に意味を持たせる、すなわち「歌わせる」ことだと言えるでしょう。

そう捉えると「歌う」或いは「歌わせる」ということには、単に楽曲をプレイするということを超えた意味が現れてきます。つまり作曲・アレンジ段階での各パートのフレーズやコード選び、構成の考え方やノリ作りなども、音楽に意味を与える行為として広義においては「歌う(歌わせる)こと」となるわけです。
なのでここではそれらの音楽行為そのものを「人間ならではの歌」と結論づけたいと思います。

またさらにこうして突き詰めると、歌の良し悪しとはボーカリストの問題どころか楽器演奏の問題すら超えて、音楽の良し悪しそのものと密接に関係していることになります。
今回の内容は少し抽象的に過ぎるかもしれません。しかしこれから良い音楽を作りたい、演奏したいと思う方は、その演奏、アレンジ、さらには楽曲そのものを含め、その音楽が「歌っているか」さらには「どのように歌っているか」と意識しながら取り組んで欲しいと僕は願っています。

音楽の良し悪しを決めるのはその意味に思いを馳せることの出来る人間である以上、音楽を美しく歌わせるのもまた、その美しさに意味を与えることの出来る人間なのですから。

この件は以上です。

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