初心者向けバンド講座(改訂版)- 活動戦略編

さて初期衝動信仰が根強い日本のバンドマンにおいては「活動方針だの戦略だの鬱陶しいなぁ? 好きな曲作ってやりたい時にライブやりゃいいじゃねぇかよ?」という考え方をする人がたくさんいますが、実際のところ、英米ではパンクバンドですらプロ志向であればきちんと営業戦略を立てます。

例えば The Libertines は Rough Trade という有名レーベルに所属する The Strokes に影響を受け、自分たちもここに気に入られるよう弁護士をマネージャーとして雇い営業に励んだそうです。結果見事に同じレーベルからデビューし、Arctic Monkeys を筆頭に大量のフォロワーを生みました。
またこれは僕のバンドメンバー(アメリカ人)から聞いた話なのですが、Nirvana の Kurt Cobain も公の場やメディア上では「売れたくなんてなかった。ずっとマイナーなままでいたかった」とさんざん発言していながら、 実際インディ時代には毎日アメリカ中のラジオ局に「おれの曲を流してくれ!」と電話営業をかけていたそうです。

話を戻して、「戦略とかもいいけどさ、最後に成功するのは言葉にできない何か圧倒的な魅力のあるバンドだろ?」と言う人たちもいます。これは必ずしも否定できません。
僕の友人にも、集客ゼロからライブハウスで着々とお客さんを増やし大型フェスに出演したバンドがいます。その周囲には曲の良いバンドも演奏の上手いバンドもたくさんいましたが、成功したと言えるバンドはほとんどいませんでした。似たようなケースはいろんな人から聞いたことがあり、そう思うと確かに、決定的な結果を出すには「人知を超えた何か」が必要なのかもしれません。正直に言って僕自身、売れるか売れないかの半分以上は「運」だと思っています。

しかしそのような理論化できない能力を必要条件に据えてしまえば、「才能の無い奴はやめとけ」というつまらない結論になってしまいます。この結論の不思議なところは、その才能なるものの正体について誰も明確に定義出来ないにも関わらずそれが根拠として堂々とまかり通ってしまうことなのですが、そこを追求するとちょっとキリがないのでこの件はまた別の機会に譲ることとしましょう。

ただいずれにせよ、僕は金にもならないアマチュアバンドの世界にプロスポーツのようなシビアな才能の有無を求めるのは文化的に先細りを招くだけだと考えています。
なぜならバンドをやりたい人の大部分はポップミュージック(ロックもヒップホップもエレクトロニカも広義においてはこれに含まれます)、すなわち大衆文化をやろうとしているからです。そして大衆の手から取り上げられた大衆文化がどのような末路を辿るかは、浮世絵なり歌舞伎なり、日本の伝統芸能の現在を見れば充分お分かりいただけると思います。
大衆文化であるということは、オーディエンスがその良し悪しを測る上で専門教養に拠らないということです。ならばポップミュージックである以上、その担い手に対して専門教養に基づき才能を測ることもまた、ナンセンスということになります。

一方でなかなか金にならないことは分かってるのだから、少しでも支出を減らすための活動計画を立てるのは当然と考えるべきでしょう。金持ちが道楽でやるのなら別になんでも構いませんが、たいていのバンドマン、特に若い人たちはそうではないのですから。

単なる趣味だというなら生活に支障がないようにするべきだし、ガチガチのプロ志向だというなら、なおさらその活動がリターンを見込める投資なのかどうかをきちんと検討する必要があります。日本では「プロ志向だけど金のことは考えたくない」という謎な考え方をするバンドマンがたくさんいるようですが、そういう人たちはプロ志向を名乗るのをやめるか、せめて自分たちの代わりに金のことを考えてくれるスタッフを雇うべきです。
さて趣味志向、プロ志向のいずれにしても、スタジオに籠もって楽しむセッションバンドや音源リリースに特化したバンドでない限り、支出を減らし、願わくば収入を得るためには、しつこいようですがライブでの集客について考える必要があるわけです。なおライブバーでしかやらないバンドでも集客ゼロは店に嫌われるので注意してください。

また前回述べたように、楽曲の力でもって集客に繋げるためには「自分たちのお客さんに喜ばれるであろうバンド像」或いは「お客さんが喜ぶであろう、自分たちがなりたいバンド像」を反映させた曲作りが必要なわけですが、初めのうちは可能な限りポップにすることが望ましいです。それは必ずしも売れ線J-POPソングを作れという意味ではありません(もちろんそういう音楽をやりたい人はそれで構わないわけですが)。初見の人に対して親切な、分かりやすい曲作りを心がけて欲しいという意味です。

マニアックで手の込んだ作曲やアレンジは上手くハマればカッコいいし作り手としての達成感もありますが、お客さんに理解できなければ単なる自慰行為に過ぎないわけです。中には「聴きやすいマニアックさ」を演出できる凄腕もいますが、初心者バンドがそれを狙うのは無謀なので、少なくともライブで披露するのは控えましょう。
またこれは以前に触れた「初心者バンドが多様な音楽性を取り入れるのはオススメしない」にも繋がります。きちんと消化し表現できるなら構いませんが、作曲スキルが低いうちはたいてい「いろいろやってるけど最終的にどうしたいのか理解できない」音楽になってしまいます。そしてそういう人たちほど「おれたちのやってることに客が付いて来れないだけさ!」みたいな勘違いをしがちです。しかし前回述べたように「なりたいバンド像」が伝わらなければ、お客さんとしても付いていきたいとは思えません。

なので最初は、J-POPでもパンクでもメタルでもレゲエでも何でも、下敷きにするバンドが何でも構いませんが、自分たちの軸になる音楽性を決め、それを作曲/アレンジに分かりやすく反映させてください。すると初見の人に親切な音楽になります。まぁそもそも下敷きにする音楽がマニアックな場合もありますが、初心者のうちからそれをやりたい人は、作曲も演奏もある程度上達するまでライブは控えたほうがよいでしょう。もしそれでプロ志向だというなら、まずそこから考え直すべきかもしれません。もちろん上級者の場合はその限りではないです。

それからもう一つ、出来るだけ早めに「代表曲」を作りましょう。「代表曲なんて客が自然に選ぶもんだろ?」と思うでしょうしそれも一つの正解です。しかし代表曲というのは単に最も人気がある曲という意味ではなく、そのバンドがどんな存在であるかを象徴する曲でもあります。ならばその意味においては、自分たちの「なりたいバンド像」をきちんと共有出来ているなら、自分たち自身でその象徴たる曲を狙って作ることも出来るはずです。
もちろんそれがお客さんに選ばれるという意味での代表曲になるかどうかは実際に演奏するまで分かりませんが、前回しつこく述べたミーティングの内容を活かし、そこに近づけるよう頑張ってください。

なおそういう楽曲が1曲でも出来ると、その後の作曲が非常に楽になります。似たような曲を増やすのでもいいし、またその曲の一つの要素をより強調した曲を作る、足りない要素を一つ付け加えた曲を作るなど、全くの新規作曲というよりアレンジに近い曲作りが可能になるためです。まぁあまり極端に似通った曲ばかりでは自分たちもお客さんも飽きてしまう恐れがありますが。

ところでバンドとしてやりたい音楽性、なりたいバンド像はある程度定まったのに、いざ曲を作ろうとするとその音楽性に沿わない曲ばかり出来てしまう人もいると思います。こういう人は、不幸なことですが、やりたいことと向いていることが一致していない場合があります。
イケイケのパンクをやりたいのに出来る曲はバラードばかりとか、どポップな歌ものをやりたいのにうるさいギターリフばかり思いつくとか、そういう人は自分のやりたいバンドを(脱退、解散まで含め)見直すか、でなければ自分はプレイヤーに徹して作曲は他のメンバーに任せたほうが良いかもしれません。それでもどうしても自分で曲を書きたいというのであれば、ある程度きちんと音楽の勉強をして、他人の楽曲を分析出来るよう訓練を積むほかないでしょう。

ただその一方で、いろんなタイプの曲を作ることは自分の引き出しを広げ、ひいてはバンドの音楽性に利かせるスパイスにも繋がっていきます。ライブのセットリストに入れないなら様々なスタイルの曲を作ることは将来的に無駄にならないので、スタジオ内での実験という意味ではどんどん試していいと思います。

もし試した音楽が、それまで「なりたいバンド像」としていたものより魅力的だとメンバーの総意が得られたなら、その時点で新たなスタイルを目指すのもよいでしょう。ある程度キャリアを積んだバンドが音楽性を大きく変えるのはかなりの冒険ですが、まだ初心者であれば失うものなんてほとんどありません。それまで観に来てくれたお客さんへの印象が気になるのであれば、転機であることを分かりやすく示すために、音楽性と一緒にバンド名も変えてしまう手もあります。

なおこれまで十数年、僕が見てきた限りでは、いわゆる「完全プロ志向」の場合、一貫した音楽性でだいたい3~4年やって芽が出なかったバンドは音楽性を一新するか、でなければ解散してもさほどの違いはないようです。
もっともごく稀に、一貫した音楽をやり続けながら、結成10年以上経ってメジャーデビューを決めるようなバンドも確かにあります。たまたま敏腕マネージャーと出会えた、やってきた音楽に時代がようやく追いついたなど理由は様々ですが、そういうケースは冒頭のほうでも触れたように「運に恵まれた」と考えるべきだと僕は思っています。「自分たちもいつかそういうチャンスが来るはず」などと期待するのは見通しが甘いと言わざるを得ません。

その自覚を持った上で、もちろん運を引き寄せるため、またその運を活かす実力を身につけるために努力し続けるべきなのは言うまでもありませんが。

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初心者向けバンド講座(改訂版)-バンド始動編

さて無事にバンドを結成できたとします。
或いは一部サポートの場合もあるかと思いますが、どのような形でメンバーが集まったにせよ、既に一回以上スタジオに入って全員の好みや実力のほどはある程度分かったと思います。ここで本格的に活動を始める前に、必要なのは充分なミーティングです。これは遊びのバンドであっても例外はありません。

事前に好きなバンドや大まかな活動方針は確認してあると思いますが、初対面のときはまずバンドに加入するため猫被ってた人が「実は…」というのはよくある話です。時間は充分にあるのですから、本音を引き出せるようにしっかり腰を据えてミーティングしましょう。
また、ミーティングと言うと構えてしまうかもしれないので、飲み会や、酒が飲めないメンバーがいるなら鍋をつつくなどでも構いません。中には直接会うとなかなか本音を言えないような人もいるので、SNSやチャットを使うのもよいでしょう。そのあたりはメンバーの人柄に応じて工夫してください。

このミーティングの目的は、前回冒頭で述べた「メンバーの温度差」を調整するためです。例えば全員が完全にコピーしかやるつもりがないというならさほど問題ないですが、趣味/アマチュア志向であってもコピー中心にやりたいのかオリジナル中心にやりたいのかで活動の仕方は変わってきます。
ましてやプロ志向だと、コピーから徐々にオリジナルへ向かうのか、最初からオリジナル中心でやるのかだけでも相当な温度差があります。コピーにしても、同じバンドが好きな中で好きな曲がそれぞれ違うことは多いので、やはり擦り合わせる必要はあります。好きじゃない曲は誰だってやりたくないのですから。

なおこの段階で「自分がやりたいことはカッコいいに決まってるのだから全員それに付き合え」とか考える人は、そもそも集団行動に向いてないのでバンドをやることそれ自体を考え直したほうがよいと思います。ただ稀にノエル・ギャラガーみたいな、周囲を全てコントロールしてこそ力を発揮出来る人もいるので、そのぐらい自分に才能があると思う人はどうぞ好きにしてください。

ともあれこのミーティングを通じて、メンバーそれぞれの温度差を均した「バンドの温度」を全員で共有してください。もともと温度差がほとんど無いならいいのですが、ある程度の差がある場合、必ず温度の低いメンバーに対して不満を感じるようになります。しかしそれは理不尽な不満なのです。
これはバンド云々以前の問題なのですが、メンバーは他人です。人格も育ちも知識も才能も、或いは性別も自分とは違う人間です。違う人間に対し、一つの対象に自分と全く同じ感情を持たせようとするのは不可能です。同じ音楽に感動したとしても、その感動の内容はそれぞれ違うのです。

なので、自分の温度に対して相手のそれが低いからといって不満を表明しないでください。全員で共有した「バンドの温度」に対してあまりに低いと思ったときにはそれを指摘するべき場合もあります。ただここでも、相手の人格に対する敬意を忘れないよう注意してください。
相手の知らないことを自分が経験し知ってるように、自分の知らないことを必ず相手は経験し知っています。どれほど論理的に筋が通っていたとしても「なんで俺と同じように考えらんねぇんだ!」みたいな考え方のほうが不自然なのです。どうしてもそれを他人に望むなら、まずは「どうして相手がそう考えるのか」もっと言えば「どうして相手がそう感じるのか」を考え、共有までは不可能でも、出来ることなら共感しましょう。いくら理性的に振る舞おうとしたところで基本的に人間は感情的な生き物なので、結局は相手の感情に訴えかけなければ話は通じないのです。

何をどうやっても思いが通じそうにないと思ったなら、思い切って解散なり脱退なりするのもよいでしょう。何度でも言いますが、金にもならないのに楽しめないバンドなんてやる必要はないのです。活動を長く続けるほどしがらみや思い入れによって辞めづらくなるので、ダメだと思ったら早めの解散をオススメします。

初期のバンドミーティングで話し合うべき内容ですが、どんな音楽をやりたいかだけでなく「どんなバンドになりたいか」について一層の時間を設けてください。
例えばプロ志向であれば、とにかく売れることを目指すのか、それとも売れ行きはそこそこでも音楽的なこだわりが評価されることを目指すのか。遊び志向でも、ただ自分たちが楽しみたいだけなのか、それとも自分たちが楽しみつつそれをショウとしてきちんと見せたいのか、など。
なりたいバンド像はそれこそバンドの数だけあるでしょうが、それに応じて活動の仕方も大きく変わってくる場合があります。

例えば遊び志向で自分たちが楽しみたいだけの場合、そもそもライブをやる必要があるかどうかを考える必要があります。お客さんの目を想定しないのであれば、スタジオセッションだけで充分かもしれません。ライブをやるにしてもライブハウスのブッキングは構想から外したほうが良いでしょう。
ブッキングライブのお客さんは自分たちが呼んだ人たちだけではないので、あまりに内輪ノリで完成度の低い、または不真面目な(ように見える)ライブをやると他バンドのお客さんが白けてしまう場合があります。これはライブハウスにとっても他バンドにとっても面白くありません。

なので「パフォーマンスの質には自信がないし内輪ノリが強いけど、どうしてもライブハウスの音響や照明がないと気分が乗らない」というバンドは、ブッキングライブではなくホールレンタルプランを利用するべきでしょう。金額は高い(10~20万円ぐらい)ので、似た活動方針の知人、友人を誘って共同開催すると良いかもしれません。
なおこれはプロ志向であっても、実力が備わってないなら同じことです。ライブハウスのブッキングライブに出るのは、自分たちのパフォーマンスが他バンドのお客さんをも楽しませられる自信が付くまでは止めておきましょう。
ライブの経験を積むにあたっては、ライブ可のスタジオやストリートから始めるのをオススメします。

一方どのような方針であれ、やるからにはきちんとした設備のライブハウスでプレイしたい気持ちはやはり多くのバンドが持っていると思います。なので、どの段階にたどり着いたらライブハウス中心の活動をしても問題ないのかを考えていきます。

まず一番大事なのは集客です。残念ながら音楽性だの演奏技術だのは二の次です。これは単にチケットノルマの問題ではなく、音楽に限らずどんな表現であれ鑑賞者の存在なくして作品(楽曲だけでなく、ライブショウも一つの作品です)は成立しないので、集客について考えたくないというのは、人前でライブをやりたくないと言うのと同じことだからです。

意味が分からないという人は、お客さんが1人もいない会場で自分たちがワンマンライブをやると想像してみてください。「俺たちはそれでも構わないぜ!」と言う人たちは大人しくスタジオに籠もっているか、もしくは先述のようにホールレンタルを利用してください。お客さんの存在を気にしないのであればライブ環境にもこだわる必要がないはずです。

ただ集客については、まず「こうすれば絶対集まる!」という方法は存在しないと思ってください。かなりの経験があっても多くのバンドがこれに悩み続けています。ネット上では「集客コンサルタント」みたいな人を見かけたりもしますが、ああいうのは99%詐欺と考えてよいでしょう。本当に誰でも稼げるほどの集客方法が存在するのなら、まずその人が自分でバンドをやればいいわけですから。
確実に言えるのは、告知/宣伝を地道に継続しなければ、そもそもそのバンドが存在し活動しているということすら誰にも知ってもらえないということです。

たまに「良い曲作ってライブで良い演奏すれば勝手に客なんて増えるよ」と言う人がいますが、これは嘘なので信用しないでください。全くのデタラメとも言い切れないのですが、極めて説明不足の無責任な発言であると言わざるを得ません。解説していきます。

これを読んでいる中にある程度バンド経験のある人たちがどのくらいいるか分かりませんが、そういう人たちは「なぜこの曲が既に売れてないんだろう」と思う優れた曲を超絶技巧の演奏で鳴らすバンドが集客は1ケタ、という場面に何度も遭遇したことがあると思います。
そういったバンドたちが、そのときはまだ評価されてなかっただけで後に売れた、というならともかく、たいていの場合は売れるどころか集客がそれ以上増えることもなく、年をとって解散したり、活動方針をプロ志向から趣味志向に変えたりします。

なぜそんなことが起こるのかというと、当たり前のことですが、「あなたにとっての名曲が誰にとっても名曲とは限らないから」です。あなたが「すげぇ! 歴史的名曲だ!」と思った曲を、極端に言えば、世界中であなたとそれを演奏するバンドしか好きでない場合があるからです。

結局のところ、楽曲の力でお客さんが増えるということは、多くのお客さんの好みが(意図する、せざるに関わらず)それらに反映されているということです。つまり集客に繋がる「良い曲」というのは、「あなたが良いと思う曲」ではなく「聴いた人の多くが良いと思う曲」です。ここで言うまでもなく、「あなたが良いと思わなくても多くの人が良いと思う曲」もあります。そしてこれは、残念ながら、あなた自身が作った曲でさえ、そういう場合があります。
なのでプロ志向の有る無しを問わず、楽曲の力でもって集客を意識するなら「個人的な好みを超えて多くの人が良いと思うであろう曲を作る/選ぶ」必要があります。

ところが一方、当然ながらお客さんにはそれぞれ固有の好みがあります。楽曲だけでなくジャンルの好みもあります。「速くてうるさい曲は聴きたくない」という人もいます。逆に「速くてうるさい曲しか聴きたくない」という人もいます。またそれらの好みはしばしば、音楽の質の良し悪しを超えて作用します。

さて似たような趣味の人間を集めて結成したバンド内ですらしばしば意見がぶつかりあうというのに、人となりもよく分からない不特定多数のお客さんの好みなど、どうして反映させられるでしょうか。
つまり「自分の思う良い曲」をもって集客に繋げられるかどうかを自分で判断することは、原理的にほとんど不可能なのです。ただ想像し、ときには計算しながら、「失敗することを前提に」トライ&エラーを繰り返す他ありません。

その当たり前のことをバンドの方針にきちんと落とし込み、メンバー全員が納得し理解する必要があります。回り道をしましたが、要するに集客が最も大事である以上、「どんなバンドになりたいか」を考えることと「どんなお客さんにライブに来て欲しいか」を考えることは表裏一体の関係なのです。さらに言えばそれは「お客さんの反応を含め、どんなライブをやりたいか」を考えることにもなります。

なので、来てくれたお客さんを想像し、またどの曲でどんなふうに盛り上がるのかを想像しながら曲を作り/選び、アレンジし、セットリストを考えてください。MCを入れるタイミングも、自分たちが疲れそうなところに入れるのでなく、「ここでお客さんたちが一息つきたいだろう」と思うところに入れてください。もちろんそれらが上手くいくかどうかは、ステージに立って実践することでしか答えが出ないのですが。

しかしそれらをメンバーで共有出来れば「なりたいバンド像」もその一部として見えてくるはずです。これを共有出来ないといわゆる「音楽性の違いが理由で脱退/解散」が発生します。もちろん影響を受けたバンドをロールモデルとして構いません。
なおこの考え方は、音源作りメインでライブをほとんどやらないバンドであってもだいたい同様です。リスナーが曲をどのように聴くかを想像しながら作ってください。まぁこの活動の仕方で、かつ遊び志向の場合は、お客さんの反応をほぼ気にする必要のない例外的存在とも言えますが。

話を戻して、確立した「なりたいバンド像」に従って曲を作り、スタジオライブ等で地道に活動します。細部についてはまた機会を改めて述べますが、おそらく初めは友達をライブに呼ぶことになります。足を運ぶのが苦にならない環境で活動すれば、人徳にもよりますがまずまず来てもらえるでしょう。
そして来てくれた友達に、自分の目指すバンド像を積極的に語ってください。現在かけ離れていたとしても、ちゃんと延長線上にあるものなら友達は信じて、或いは楽しみにしてくれるでしょう。期待が生まれれば、現在は物足りないライブでも、成長を確かめたくてまた足を運んでくれます。
やがてライブの質が着実に向上していけば、あなたのバンド像を友達がそのまた友達に聞かせ、興味を持った人を連れて来てくれるでしょう。そこで「友達の友達」があなたの友達と同じように期待を抱き、自分でライブに来るようになれば、利害関係のない他人がお客さんになってくれたわけです。

アマチュアバンドが未熟なのは当たり前なので、お客さんは現在の力量だけでなく、期待値込みでバンドを判断することが多いです。なので「なりたいバンド像」を共有する重要性はここにもあります。先行きが曖昧な姿を見せては、そのバンドのどこにどう期待していいのかもお客さんには分かりません。
つまり多くの場合、楽曲やパフォーマンスの好みに加え、将来性を認められて初めてお客さんが付くのです。視点を変えれば、将来に期待させるような曲作りや振舞い、工夫をすればいいとも言えます。もちろん具体的なやり方は目指すバンド像によって変わってきますが、それを見出すまで、或いはお客さんが自分たちの将来に期待しているのを確信するまで、ライブハウスに出るのは控えましょう。

「いやそんなまどろっこしいことしないで最初からライブハウスに出て余所のバンドからお客さん奪えばいいじゃん」と思った人は、残念ながらナメてます。これはあくまで初心者バンド限定で言うのですが、自分たちの実力の無さを甘く見てます。

仮に何年もスタジオに籠もって修行したとしても、初めてのステージから上質なライブを出来るバンドはいません。何度もライブハウスに足を運んでいる人たちなら承知のことと思いますが、単に演奏がしっかりしていれば良いライブになるというものではありません。ライブの見せ方、運び方もパフォーマンスの一部です。実際かなりの経験を積んだバンドマンでも、新規に始めたバンドではステージ上でのメンバー感の呼吸までは把握出来ていないことが多いため、いきなり良いライブをできるケースは稀です。ましてや初心者バンドにおいては、最初の数回は必ず、自分たちが思うより遙かにみっともないライブになると思ってください。
初期のスタジオやストリートでのライブを「ライブの練習」と位置づけても良いかもしれません(キャリアのあるバンドの場合はもちろん意味合いが全く違います)。

人付き合いの得意な、人脈の豊富な人であれば、最初の数回のライブは数人どころか数十人のお客さんを呼べるでしょう。しかしそこで決して安くないチケット代と時間を使わせ、どうしようもないライブを何度も見せたらどうなるでしょうか? 当然ながら、その人たちは来てくれなくなります。
仮に将来性をある程度まで認めたとしても、現在の、そして近い将来のライブに対して金銭的・時間的に割に合わないと思ってしまえば、その人はもう自発的に足を運んではくれません。
そして一度見て聴いた上で遠ざかったお客さんを呼び戻すのは、新たにお客さんを付けるより遙かに難しいのです。

すると活動を重ね、せっかくバンドがカッコ良くなってきた頃には、初めは数十人来てくれた友達のほとんどに見放されている、という悲しい状況が訪れます。これは残念ながら本当によくあるケースです。お客さんにとっての敷居が低いスタジオやストリートを初心者バンドに勧める、一つの大きな理由です。

それでも一度出てみないことにはライブハウスでプレイすることの本当の感覚は分からないじゃないか、と思う人もいるでしょう。それは否定できません。なのでどうしてもやりたい人は、これはマナー違反を承知で言いますが、彼女(彼氏)だけを呼んで、ノルマ不足代金を勉強料と思って出演しましょう。
彼女/彼氏がいないなら、事情を説明した上で信頼できる友達だけを呼びましょう。最低でも一人は呼んでください。これはライブハウス側に対する義理ではなく、自分たちのことを良く知ってる人に観てもらわないと、ライブハウスのステージで自分たちのショウがどう見えるかを検証できないからです。

ただこれはあまり何度もやるべきものではありません。経験を積むうちにいずれ分かることですが、ライブの度に発生するノルマ不足代金を払うためにバイトするのは、楽しくバンドをやる上で本当にバカバカしいことだからです。
そうならないために、如何に支出を抑えながら活動するか、また如何に来てくれる友達を減らさずにバンドのキャリアアップを図るかを考慮しながら活動方針を決めてください。

もちろんこれは最初の方針を頑なに守る必要はありません。その都度自分たちの置かれた状況や進歩度を良く見極め、まめにミーティングを行って「バンドの温度」「なりたいバンド像」を共有し直してください。何度でもトライ&エラーを繰り返してください。

言葉にすると面倒に見えますが、長い目で見ればこの繰り返しこそがメンバー間の余計なストレスを減らして結束を増し、結果としてバンドの成長も早くなるのです。

初心者向けバンド講座(改訂版)-バンド結成編

(この記事は以前に togetterまとめで作成した【超初心者向けバンド講座】をブログに起こしたものです)

なぜバンドをやりたいと思ったのでしょうか?

単純に好きになったバンドに憧れ、自分もやりたくなったという人がおそらく大半でしょう。
最近の若い人だとマンガやアニメの影響がわりと大きいのかもしれません。
理由はどうであれ、始めるのは簡単です。しかし続けるのは簡単ではありません。

そもそもの前提として、バンドで音楽やって食っていこうというのは2013年現在あまり現実的ではないので考え直したほうがいいでしょう。ボカロPやったほうがぜんぜん売れます。それですら食えるほどまで売れるのは簡単ではないし、特に若い人たちはそのぐらい承知のことと思います。

なのでバンドをやりたい人は、まず自分のやりたい音楽に「バンド編成が本当に必要か」を考えてください。ソロでもできる、打ち込みでもできる、というのであれば、バンドならではの楽しさより面倒なことのほうがおそらく多いのでやらないほうがいいかもしれません。音楽で食いたいというなら尚更です。
それでも音楽をやっていく上で、バンドという形態を一度通過してみたいというならそれは構わないし、また将来はスタジオワークを仕事にしたいという人が「バンド感」について学ぶためにバンドをやるのもよいでしょう。

いずれにしても、自分がなぜバンドをやりたいのかは一度しっかり考えたほうがよいと思います。
「バンドなんて初期衝動でやるもんだろ」と言う人もいるでしょうが、「自分は衝動によってバンドをやりたいのだ」と自覚していれば当面はそれで構わないと思います。いずれそれだけでは済まなくなるのですが、考えすぎて行動を起こせなくなるのもどうかと思いますので。

なぜこんなことをくどくど言うのかというと、ある程度の年月ひとつのバンドでメンバーが過ごしていると、「メンバーそれぞれの動機による温度差」がバンドの活動に悪影響を及ぼす時期が、必ず絶対に間違いなく一度は訪れるからです。
そのときに話し合いなど(別にケンカでもいいですが)でメンバー全員が同じ方向を向いて頑張れるならよいのですが、そうでないならほとんどの場合、だらだら続けて若いうちの貴重な時間をほぼ無駄に過ごすこととなります。さっくり解散して次に行ったほうがマシです。

バンドを組むより先に解散の話が出てしまいましたが、どのような形(解散であったり死であったり)であれバンドが終わるとき、自分の音楽活動が終わるときというのは必ず訪れるので、後悔しないためには「バンドを通じていずれ自分はどうなりたいのか」を常に意識しましょう。
もちろんプロ志向でやるのか趣味/遊びでやるのかを初心者のうちに決める必要などありません。ただ楽しむためにやっているうちに、段々と欲が出て上を目指し始めるのが普通です。しかし「何をもってプロとするか」を考えるのは無駄ではないと思います。
メジャー契約すればプロなのか?
大型フェスに出ればプロなのか?
ギャラが貰えるようになればプロなのか?
歌や演奏が上手ければプロなのか?
音作りにこだわるのがプロなのか?

分かりやすい資格のある世界ではないので、明快な答えもありません。実際に「いわゆる」プロとして活躍してる人たちに訊ねても、しばしば答えが食い違うのではないでしょうか。
そういう時代に自分はあえてバンドを選ぶのだ、ということを覚えておいてください。それは言い換えると、今の時代でもなおバンドという形態でしかできないことが好きで、それを楽しもうとしているということです。夢のない話をしていますが、夢など見なくても音楽を、バンドは楽しむことは出来ます。
取り巻く状況が厳しいからこそ、なおさらまずは楽しんでください。いずれ金銭の管理や営業活動など生臭い話も出てきますが、そういうものも含め、「バンドをやるということにまつわる全て」を出来る限り楽しむよう心がけてください。
前置きは以上です。

では実際にバンドを結成する流れを考えてみます。一番簡単なのは友達を誘うことです。大学生なら軽音サークルで探すのが手っ取り早いのかもしれません。
なおこれまでの経験上、大学生でバンドマンという人は、既にバンドを結成していたとしても、軽音サークルに出入りしたほうがよいと思います。「そんな馴れ合い集団と俺は違うぜ!」とカッコつける人も多いですが、バンドマンの友人が多いことは後々の活動しやすさに関わってくるし、何より一番の利点は「ドラマーの知人が増えること」です。
何年もバンド活動してる人にとっては周知の事実ですが、日本では住宅事情のせいかとにかくドラマーの絶対数が少なく、探すのが非常に大変です。なので別ジャンルの人であっても、ドラマーと近づく機会があれば連絡先ぐらいは押さえておきましょう。ドラマー同士の横の繋がりから好みのドラマーに出会うケースもあります。
いきなり脱線しましたが、ドラマーの知人を多く作っておくことは、先々まで音楽を続けたい人にとっては本当に大事なので覚えておいてください。練習スタジオなどにあるメンバー募集の張り紙、あれらを見てもバンドマンたちにとっていかにドラマーの需要が高いか分かると思います。

メンバー募集の張り紙が出てきましたが、バンドを組む上で足りないパートが出てしまうことは多々あります。知人のツテを頼っても見つからなかった場合、それらいわゆる「メンボ」を使うことになります。近年は張り紙よりメンボサイトを頼るケースが多いかもしれません。
しかし自分たちがメンバーを募集してる場合、サイトだけでなくスタジオや楽器屋への張り紙も実施しましょう。理由は、メンボサイトを見るのは積極的にバンドやメンバーを探してる人「だけ」ですが、張り紙は手持ちぶさたのバンドマンが数多く、なんとなく見てくれるからです。
そのなんとなく見てくれた人のなかに、あなたの張ったメンボがどストライクで、それまでのバンドを辞めて加入を考えてくれる人がいる可能性もあります。なので足を使った営業をサボらないようにしてください。なおメンボサイトの存在を知らない人がもしいれば、「バンドメンバー 募集」とかでググればたくさん出てきます。

さてメンボを作って足りないパートを探す、あるいは加入希望する際の注意点ですが、まず完成させる前に必ず文章を推敲してください。何を言っているのかが分からない、どんなバンドを目指すのかが見えてこないメンボでは、どれほどセンスの良い音楽をやろうとしていても人は集まりません。
これは具体例をここで出すより、実際にメンボサイトを巡っていろいろ見るのがよいでしょう。ジャンルや好きなバンドのことは置いておいて、紹介文だけを読んで好感を持ったもの、分かりやすかったものを幾つかピックアップし、或いはコピペして参考にしましょう。

既に活動し音源もあるバンドなら試聴サイトやYouTubeのURLを貼ってしまえばだいぶ話は早いのですが、仮にそうであったとしても、そのURLに導くためにはまず文章でこちらの意向を伝えなくてはならないのですから、文章力がないというのは言い訳になりません。また別の機会に改めて述べますが、ボーカル物の音楽をやるのであれば歌詞を書く上でもやはり文章力は重要です。他人を参考にしようにもやり方が分からないというなら、国語の勉強をしてください。
とはいえ以上は最低条件であって、最終的に誰かの加入や受け入れられる決め手は、もちろん音楽性の問題になります。そこで好きなジャンルやバンド名を書く際の注意点を挙げます。

1・あまりたくさん羅列しないようにしましょう。
2・やりたい音楽に直接繋がらないバンド名は書かないようにしましょう。

1の理由は、単純に読みづらいことが一つ、もう一つは例が多いほどやりたい(とメンボ上で思わせる)音楽の焦点が曖昧になることです。できれば3~5個程度に留めましょう。多様な音楽の要素を取り入れたい、という人もいるでしょうが、初心者にはオススメしません。理由は別の機会に述べます。
2ですが、これは主に自衛のためです。メンボを見る人には当然ながら既にバンド経験の長い人も多くいます。そのほとんどは初心者のバンドに入ろうとは考えませんが、中には「経験の浅いバンドに入って自分の思い通りにしてやろう」と考える面倒な人もいます。
この場合、相手のほうが多くの経験を積んでいるぶん言うことに説得力もあり、また実際勉強になることも多いはずです。ここでその相手の目指す音楽が一緒なら大きな助けになりますが、逆にやりたい音楽と繋がりの薄いバンドの影響を強く出されると、一緒にやるのが楽しくなくなります。
前置きに挙げた理由で楽しくないバンドをやる必要などないので、ここはしっかり自衛しましょう。また加入前の段階で相手に会う際、人柄にそういう気配を感じたらきちんと断りましょう。万が一、相手が上手で面倒な人を迎え入れてしまった場合は、それに気づいた段階で遠慮なくクビにしましょう。

繰り返しになってしまいますが、やりたい音楽をやっていても、バンド活動を続けると苦しいこと、面倒なことがたくさん出てきます。なので「バンドを存続させるためにやりたくない音楽をやる」なんて愚の骨頂です。そのバンドが自分たちにとって楽しいものであるということを最優先にしてください。
なお初心者による「全パート募集」というのは需要がほぼゼロなので、「自分のバンド」を組むためにメンボを作るのは考え直したほうがよいでしょう。どれほど素晴らしい音楽が頭の中に眠っていても一緒にやってくれる人がいなければ意味がないので、まずはどうにか趣味の近いバンドを探して自分から加入するか、打ち込みなり弾き語りなりで自分の音楽を形にする経験を積んでください。

自分がどんなパートを選ぶかという過程を飛ばしてメンバー募集の段階にきてますが、そんなことは好きにすればよいと思います。アスリートじゃないのだから、やりたいパートを選び、無理だと思ったときに替えればいいのです。
しかしボーカルは例外です。例えば声量が小さいのに爆音バンドでボーカルやりたがるとか、あまりに音痴というなら考え直したほうがよいでしょう。それこそ修正するのにアスリートみたいな努力が必要になるので、そこまで含めてボーカル志望の人は真剣に向き不向きを考えてください。

なお既に述べた理由により、これからバンドをやってみたいけどパート選びを迷ってる人、または他のパートをやっているけどあまりしっくりきていない人は、ドラムを選ぶことをオススメします。上手くなれば加入するバンドなんて選びたい放題だし、ギャラを貰ってサポートをやる上でも他のパートよりはだいぶハードルが低いです。
「目立ちたいからバンドやろうと思ってるのにドラムなんて」と思ってる人は、なおさらドラムを選んでください。映像では撮影環境などのせいで分かりにくいですが、実はライブではボーカルの次にドラムが目立ちます。嘘だと思ったら手近なライブハウスにでも行って目の前で生演奏を見てきてください。
それももちろん実力次第ではあるし、またさすがに10人編成とかの大所帯だと目立ちにくいですが、2~3人編成だとギターボーカルより目立ったりします。とりわけドラムボーカルなんて他のメンバーがどうでもよくなるぐらい目立つので、ボーカル志望の人にも一考の価値はあると思います。

さてメンバー集めの話に戻って、メンボを見て連絡を取り合い、実際に会うところまできたとします。このときはできるだけ、既に集まったメンバー全員で会いましょう。そして可能な限り音楽以外の話をしましょう。楽しくバンドをやる上で、音楽を介さずとも仲良くできるかどうかはとても重要です。
バンドを続けていく限り、音楽を鳴らさずともメンバーと共にいる時間は増えていきます。いくら腕が良くとも、またやりたい音楽を共有していようとも、人間的に気にくわない相手と多くの時間を過ごすのは、当たり前ですが苦痛になります。
反論もあると思います。「音楽で、とりわけバンドで食っていくのが極めて難しい状況なのだから、なおさら優れたメンバーをシビアに集めて人間的な不満には目をつぶるべきだ」と。それはそれで正論ですが、嫌いな人間と共同作業をするのはかなりのストレスが伴います。

仮に既に売れたバンドで、やっていくうちに仲が悪くなったというなら、キャリアのために我慢するのも分かります。しかし売れるかどうかも、いつまで続けるかも分からない初心者のバンドでそのような我慢を強いるのは僕には賛成できません。
また音楽的にも、過剰なストレスを抱え込めば創造性が落ちて良い音楽を作れなくなるのが普通です。ただそのストレスをこそ活力源にできる人も稀にいるので、自分がそういうタイプだと思うならそれでもよいでしょう。初心者にはまずバンドの楽しさを知って欲しいのでオススメしませんが。
例外としては、いま組もうとしてるバンドを、自分のミュージシャンとしてのステップアップとして「のみ」捉えている場合です。嫌いな人間であろうと単純に上手い人と一緒にプレイしたほうが上達は早いので、それはそれでアリでしょう。
僕としてはただ、そういう人が音楽を嫌いにならないことを祈るのみです。

ライブハウスの未来

今回はボカロ/ニコ動が、アマチュア/インディミュージシャンの楽曲発表の場としてスタンダードとなった先に起こり得ることを考えていきます。

前回述べた通り、ニコ動では匿名ゆえに(その良し悪しは無論あるけれど)視聴者が率直な評価を躊躇わないため、楽曲、演奏ともに質が低ければ即座にダメ出しされることになります。ときにはかなり酷く中傷されることもあり得ますが、どうせ注目を浴びれば質の良し悪しに関わらず文句を言ってくる人たちは必ずいるのです。ここで批判を受け入れる、或いは受け流すことが出来ないようならどうせ先々耐えられなくなります。
一方で質が高ければ高評価を受け、口コミによって再生回数も伸びやすくなるでしょう。それが多くのミュージシャンによって幾度となく繰り返されれば、楽曲を発表する側のハードルは当然上がり、作曲者が発表前に楽曲を吟味する必要性が高まります。つまり発表される楽曲全体の質が底上げされるわけです。

日本のポップミュージックの歴史を鑑みるに、ここで逆に悪貨が良貨を駆逐してしまう危惧もないとは言えません。しかし以前に述べた通り、ニコ動界隈にはマニアックな音楽ファン(その中の少なくない割合が、僕の言う意味での「音楽好き」でもあります)もかなりの数がいるので、そこでの評価が一般層へ飛び火する可能性も充分あると僕は考えています。
結局のところ、優れた音楽が正当な評価を受けるには視聴者側のリテラシー向上が不可欠です。なのでミーハー層とマニア層が普通に共存しているニコ動という場が楽曲発表の機会としてスタンダードになることは、「マニア層がどんな音楽を良しとするのか」がミーハー層に対して可視化されるという意味でも有意義ではないでしょうか。
改めて言いますが、「良い音楽が増え、そしてその音楽がきちんと評価されること、さらにはそのサイクル自体がきちんと評価されること」が僕の望むことです。

正直これは自信があって言うわけではないのですが、ミーハー層であっても少なからず音楽に興味を持っている以上は、自分の聴く音楽やこれから聴こうとする音楽が良いものであって欲しいという欲求はあるはずだと思うのです。或いは単なる僕の願望かもしれませんが。
一方「分かる奴にだけ分かればいいんだ!」などと言ってこっそり活動するミュージシャンの気持ちも分からないわけではありませんが、聴く人が聴けば必ず評価されるという自信があるのなら、なおさらその「聴く人」が少しでも多くいそうな場所へと活動拠点を移すのが自然ではないかと思うのです。

それはさておき、先述したような状況が仮に一般化したとします。
すると曲は良いのに演奏や録音がダメなせいで高評価を受けられない人、また演奏なり録音なりは素晴らしいのに曲がイマイチなせいで評価の伸びない人、などがおそらく出てくるでしょう。
また日本人には一般的に、ミーハー層ほどテクニック指向、マニア層ほど音質指向になる傾向が見られるため、マニア向けの曲をダメな録音で制作したり、ミーハー向けの曲をダメな演奏で録音した場合、楽曲本来の良さに対して正当な評価がなされないケースがしばしばあると予想されます。そうなったときに、それぞれお互いの欠点を補完する形で作曲/演奏/録音を依頼することによって、単独では出来なかった良い音楽が生まれるかもしれません。

また個人的にはそれが新たなビジネスになる可能性は大いにあると思っています。以前「箱庭遊びとしての音楽シーン(2)」でも触れた「打ち込みの出来ないミュージシャンの楽曲をボカロ曲に落とし込むサービス」や、「凄腕のプレイヤーだけど音楽的野心を持っていない」社会人が趣味を兼ねた副業にする、というのは当然考えられる未来です。或いはそれをビジネスとして捉えることに抵抗がある人もいるかもしれませんが、ここから音楽制作における新たな環境が生まれ、またそれが一般化する可能性は否定出来ないのではないでしょうか。

こうなればライブハウスの立ち位置も変わってきます。
優れた楽曲と演奏が増え、それが(視聴者にとって、という但し書きはつきますが)「良い音楽」であることがネット上で既に担保されているなら、ライブハウスもまた「ネット上で知られている良い音楽を生演奏する場」として役割を再定義することになるでしょう。
前回述べたように動画再生数がオーディション代わりとなれば、ミュージシャンがライブハウスの現場で玉石混淆の中からライブ回数を重ね、地道に集客を増やして這い上がるようなモデルは終わりを告げることになります。またメインの客層が「ネット上で楽曲を知った人たち」になるのですから、その人たちが視聴できるようニコ生もしくはUSTREAM環境は必須です。

また現場においては、快適な自宅でも観れるものを、観客の熱気なども含めてより臨場感のある環境で鑑賞するための場になるわけです。これは言ってみれば、音楽ライブを鑑賞することがスポーツ観戦のようなものにシフトすると考えるべきでしょう。TVでも観れる野球を、わざわざスタジアムに行って観るようなものです。そうなれば当然、音楽鑑賞の場として快適であることも必要でしょう。
なぜなら動画配信を行う以上、画面を通じて「この現場に足を運びたい」と視聴者が欲することが望ましいのです。薄汚い、おっかなびっくり入るようなライブハウス、演者にとって敷居が低く、お客さんにとって敷居が高いライブハウスの映像を配信したところでさほど動員が増えるとは思えません。むしろ楽曲やミュージシャンのタイプによっては逆効果にすらなり得ます。ゆえにハードコアなどを主に扱うごく一部を除いて、そのようなライブハウスは必然的に存在意義を失うことになるでしょう。

そして言うまでもなく、それは既に始まっています。

「オリジナル曲によるライブミュージック」という幻想

今回はボカロ環境の活性化によってアマチュア/インディミュージシャンの活動に何がもたらされるかをもう少し掘り下げたいと思います。

さて前回「インターネットカラオケマン」に象徴されるような「歌い手のレベル低下」の話に触れましたが、ではそこに学生や社会人の趣味でやるコピーバンドとどのような違いがあるでしょうか。
もちろんその中には凄腕がいて、ヘタするとオリジナルより質の高い演奏をする人たちもいます。
しかしそのような人たちは稀で、たいていは「生バンドによるカラオケ」の域を出ず、またその演奏がカラオケ伴奏以下であることも珍しくありません。

これがニコ動であれば匿名ゆえのリアクションによって(無料試聴ですら)ボロクソに叩かれるわけですが、お互いの顔が見えるライブハウスではなかなかそうはなりません。しかし安くない金を払って、そういう質の低い歌と演奏を聞かされたお客さんたちが満足するとも到底思えません。
とはいえ、コピーバンドのライブというのはほとんどの場合友人を呼んで内輪で楽しむものなので、少なくとも友人のライブを見る限りにおいては、そこには前回述べたような「共犯関係」が存在するとも言えます。なので必ずしも不満ばかりを抱えるとは限りません。これが不特定多数を対象にした「歌い手」とコピーバンドとの違いとなります。

ではオリジナル曲によるライブはどうでしょうか。
ライブハウスでオリジナル曲のライブをやる場合には、大金を払っての貸切形態でない限り、知らないバンド/ミュージシャンと共演する「対バン」形式となります。当然のことながら、他の出演者のお客さんたちは友人ではありません。
そこでお客さんの聞かされる曲が平凡以下、歌も演奏も下手、音楽性の趣味も合わない、としたらどうでしょう。いかなる共犯関係も存在しない以上、そのライブはお客さんにとって他人の歌うカラオケ「未満」です。もっとはっきり言ってしまえば、その場にいることが苦痛でしかないでしょう。

どうも日本ではその楽曲が演奏者のオリジナルであることを神聖視する傾向がありますが、残念ながらこれは幻想です。英米では質の低いオリジナルを演奏されるぐらいならコピーのほうが喜ばれる文化があります。「英米では」と書きましたが、日本では文化と呼べるほどの下地が整っていないだけで、上記の理由で本当は同じことなのだと思っています。楽曲、演奏ともに質が低いのなら、お客さんにとっては同じ下手でもコピーバンドを見るほうがおそらくマシです。
もちろんライブショウとして、音楽以外の部分で見せ物としての面白さがあればまた話は別で、だからこそMCが面白かったり客いじりが上手かったりするミュージシャンがお客さんを集めやすい面もあるのですが。

ところで昔は「ライブという行為をやりたい」という欲求のためだけでなく、自分の音楽を他人に問うために、見知らぬ人と何かしらの「共犯関係」を結べるかどうかを試すために、未熟を承知でライブをやる意味がありました。
翻って現在は、インターネットの登場および発展によってライブをやらずとも楽曲を発表し、不特定多数からの評価を得ることが可能となっています。

結局のところ、経営に四苦八苦するローカルなライブハウスで起こっているのはこういうことなのです。快適な自宅でプロ/アマ問わず幾らでも新たな音楽を探し視聴出来る環境があるのに、つまらない思いをするリスクを背負ってわざわざ高い金と時間を費やしたいと考える人は少数です。
ライブハウスに人が集まらない一方でニコ動に集まるのは、そこにリスクがないからです。また大型フェスに集まるのは、リスクに対して面白さがある程度担保されている(と考えられている)ことが関係しているでしょう。いずれもブーム(これもある種の共犯関係)的な側面があるのは否定しませんが。

いずれにせよライブハウスにおいて、お客さんにとってのリスク/リターンのバランスはインターネット以前とは大きく変わってしまいました。そのことを理解出来ず「オリジナル曲によるライブは、ただそれだけで他の形態に優る」という幻想にしがみついている人たちが現在苦戦しているのだと思います。

ところで周知の通り、以前からMyspaceやYouTubeその他に楽曲をアップすることは出来たわけですが、問題はネット上にある膨大なコンテンツの中にあって、いかに不特定多数のリスナーを自分の音楽に導くかでした。英米では幾つも成功例がある中で日本ではなかなか上手くいかず(現時点で唯一の成功例と言えるのがニコ動を駆使した「神聖かまってちゃん」でしょう)、多くのアマチュア/インディミュージシャンがこれに悩んできました。しかし何度となく述べてきたように、現在ではボカロとニコ動、さらには各種SNSによる拡散を組み合わせることによって、その労力を大幅に軽減出来る可能性が出てきました。

繰り返しますが、ボカロで曲を先に発表することでライブをやる前に自分の音楽の評価を問い、そこで高評価を得たならそのときこそライブをやればいいわけです。既にネット上で共犯関係を結んだリスナーがいるのですから、その人たちをライブに連れてくるのは全く無関係な他人を自分のお客さんとするよりは遥かにハードルが低いのではないでしょうか。

またそのようにネットで一定の評価を受けてからライブをやるミュージシャンが増えれば、お客さんにとっても酷いライブを見せられるリスクが減るわけで、するとお客さんがライブハウスへ足を運ぶ上でのハードルもある程度低くなります。
或いはその状況が加速していけば「ニコ動かYouTubeでの楽曲再生回数一定以上」がライブハウスでのオーディション代わりになる未来も考えられます。というより、現在のリスナー環境を鑑みて、いずれそうなっていくべきだ、とすら僕は思っています。

次回は、仮にアマチュア/インディミュージシャンがボカロとニコ動を活動基盤とすることがスタンダードになった場合、その先に何が起こり得るか、について述べることにします。