ライブハウスのプライド(3)

さて前回はライブハウスを料理店に譬えた長い話をしました。

お分かりの通り、料理は出演者です。初心者の頃から手塩にかけて育てたバンド、或いは噂を聞いて試聴した後粘り強い交渉によって出演に至った実力者、そういった出演者たちを集め、音楽性や活動方針などなど、何かしらの基準に沿ってこだわり抜いたブッキングです。
その他店内のディティールや、店主の考え方については言うまでもないでしょう。

今回は建設的な話をしようと思うので、この料理店の話を題材に改善点を考えていきます。

まず料理は最高です。それ自体としては文句のつけようもありません。しかし最高であるがゆえにコストもかかってしまいます。考えて欲しいのは、多少の妥協をすることでコストを下げたほうが、お客さんにとっての敷居も下がるかもしれないということです。ランチ¥2000が¥1000だったらフラッとやってくる人が増えるかもしれません。最低の接客でも割安で美味しいものが食べられるなら常連になってくれるかもしれません。
「それで料理の質が下がったら本末転倒だ」と思うでしょうか。気持ちは分かりますが、本当にそうでしょうか。せっかく腕を磨いて店を出し、毎日地味な下準備と研究を重ねながらその腕を奮う機会がないこと、それこそ本末転倒ではないでしょうか。
「料理は食べてみないと分からない」と思うなら、なおさら「どうしたら食べに来てくれるか」を考えなければならないはずです。その料理を食べて欲しいのなら、まずお客さんに「その料理を食べてみたい」と思ってもらわなければ始まらないのです。

すると店頭についても考え直す必要があります。看板も「ランチやってます」ではなく「本日のランチは○○です」、さらにその○○についてある程度の詳細を書くべきでしょう。例えば単に「冷製パスタ」と書いてあるより「季節の野菜たっぷり 冷製トマトソースのカッペリーニ・ジェノベーゼソース和え」とでも書いてあったほうが興味は持たれやすいはずです。しかしあまり詳細に書きすぎても却って読みづらくなる面もあります。

そこでホームページの出番です。
そのメニューがオススメだというなら、食欲をそそるよう完璧に盛り付けた写真とともに、その調理方法や食材へのこだわりについて書くことも出来ます。多少長い文になっても店頭で読むほどのストレスは感じさせないでしょう。コース料理の写真をスライドショー形式で見せるムービーを作ってもいいかもしれません。そしてそのURLを看板に付記するなり、QRコードを張り紙することだって出来ます。

それでもすぐにお客さんが増えるとは限りません。むしろそんな簡単にはいかないことのほうが多いでしょう。
ならば店員の手は空いているのですから、店頭、或いは遠くなければ駅前など人通りの多いところでビラ配りをしてみたらどうでしょう。そこですぐ来店することはなくとも、読んで興味を持てば後々来てくれるかもしれません。
ただビラを配っても受け取ってくれないというなら、ソフトドリンクなりハウスワインなりコストのさほどかからない範囲でサービス券を付ければ多少は受け取ってくれる人も増えると思います。
また店頭に試食コーナーを設ける手もあります。むしろ「食べてみないと分からない」ならそれこそ何よりも必要でしょう。いずれお客さんが来なくて食材を廃棄するぐらいなら後々の集客へ向けてサービスしたほうがマシです。

再度例え話に戻ってみます。
試行錯誤を重ね、地道な宣伝努力の甲斐あって来店数は少しずつ増えてきました。値下げに伴い思うような食材を使えないストレスはありますが、なにしろ腕はいいのですから同価格帯で少しでも美味しいものを食べたい人たちには支持されます。リピーターも僅かながら増えてきました。
しかしそれでも割合としては、満足そうに帰りながら二度と来てくれない人たちのほうが圧倒的に多いようです。
あなたはリピーターの一人に尋ねてみましたが、納得のいく回答は得られません。
「なんでだろうね? 美味いのに。この値段でこの味なら文句ないよ」そんな調子です。
もちろん来てくれるお客さんはわざわざ面と向かって店にケチを付けたりはしません。下手にダメ出しをして悪印象を与えたくないからです。
そんな印象をなんとなく感じ取ったあなたはアンケートを取ることにしました。
料理については高評価がずらりと並びました。
一方で、自身を含む店員の接客態度、清掃状態や店内の雰囲気などには辛辣な意見が並んでいます。簡単にまとめると「料理は文句なしだけれども、人を相手にサービスする意識は皆無。二度と来たくない」といったところです。
あなたはショックを受けます。「ここは料理店なのだから、最高の料理を出すことこそサービスではないのか」と。その料理ですら自分を曲げてコストダウンを図ったのに、それでもまだ足りないのか、と。
あなたは選択を迫られます。
いっそのこと客寄せなど放棄して、以前のように最高の料理を出すことだけに専念しようか。
それとも少ないながらも常連客はいるのだから、現状のまま細々とやっていこうか。
それとも。

続きます。

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